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【小説・ミステリー】『破滅の王』—国境を越えられるのは音楽だけではない

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紙の本も読みなよ / A-key-Hit

『破滅の王』上田早夕里 / 双葉社

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↑「このミステリーがすごい!2019」第19位!

 

未知の細菌感染によるパンデミックは、アメリカドラマをはじめとして、今やかなりおなじみのネタですね。「災害パニックもの」とでもいうのでしょうか。

僕はこの手のジャンルが好きです。(現実に起きるともちろん嫌ですが・・・)

 

人為的な原因による「災害パニック」もので、代表的なものが核爆発(核戦争)です。

ただ、核は爆発してしまえば話が終わるので、現実をベースとしたミステリーだと

「どうせ爆発しないんでしょ」と思いながら読んでしまいますし、

近未来をベースとしたSFだと「爆発するんでしょ」と思いながら読んでしまいます。

SFだと最初から核爆発後の世界を舞台にすることも多いですね。

 

つまり「核」というネタを使うと、ストーリーの大筋がほぼ決まってしまうのです。

ゆえに「驚きの展開」が起こりづらくなるので、著者としては人間の生き方だとか、人生哲学だとかの内省的な方向に舵を切ることによって、作品の深みだったりオリジナリティを見出そうとします。(あるいは政治的かけ引きにシフトする。)

SFにはそういったジャンルもあるので、批判しているわけではありません。

ただ、「パニックもの」を期待している読者の方にとっては、ワクワクの展開は実はあまりないのだとお伝えしたいのです。

(もちろん基本的なセオリーなので、それを逆手にとった名作も数多く存在します。)

 

一方、「生物・化学系の災害」つまり細菌感染のパンデミックは、「核」とは違ってラストまでどうなるか分かりません。

細菌兵器を使用しても、治療薬があれば対抗できますし、治療薬がなくても感染地域を焼却すれば一時的な応急対策にはなります。(非人道的ですが・・)

・治療法は確立されているのか(方法すら模索中か)

・治療薬は開発されているのか(開発途中ならどの段階か)

・治療薬のレシピは兵器開発者だけしか知らないのか

・治療薬は感染者に行き渡るほど十分な量があるのか(生産は間に合うのか)

・治療薬を被災地に届ける手段があるのか(輸送は間に合うのか)

といった様々なレベルでのシチュエーションがありえます。

「核」のように爆発したらもう終わり、ではなく、逆転の手段が残されている点がストーリーの面白さでもあります。

 

パニックサスペンスをお望みの方は、「生物・化学系」の方がハラハラドキドキの展開を楽しめますよ。

こんな穿った見方でジャンル選びをするのは、へそ曲がりな僕だけでしょうか。

 

この『破滅の王』もそういう生物・化学系SF要素を含めたミステリーです。

 

時代は第2次世界大戦後期。舞台は中国・上海(シャンハイ)。

主人公・宮本は科学者として上海の自然科学研究所に赴任することになります。

 赴任当初は中国人と日本人が同じ施設内で共同研究に勤しむ光景が当たり前のようにありました。(上海には租界というものがあり、他にアメリカ、イギリス、フランス、ドイツ人が協力したり敵対したりしている都市でした。)

しかし太平洋戦争が激化してくると、外部からの監視や干渉が増えて、研究所では純粋な研究活動が困難になってきました。

ある日、宮本は日本総領事館から呼び出しを受け、軍人の灰塚少佐と面会します。

そこで重要機密文書の精査を依頼されるが、それは不完全な文書であり、

内容は治療法のない細菌兵器についてのものでした。

治療法がなければ兵器として使えません。(味方が感染したらアウトなので)

治療薬を作ることを依頼されるも、困難を極めます。

 

未知の細菌を採取し、放射線やらで突然変異させて、細菌兵器を作り出した男は殺されてしまいます。男は世界的なテロを目論んでいました。

彼の部下(ドイツ人)も男の思想に感化されて、菌株を持ってドイツに逃亡します。

ドイツと戦争が激化しているソ連兵に対して細菌兵器を使おうと画策したのです。

灰塚は菌株を奪い返すために、ナチスが台頭する治安の悪いドイツに飛びます。

 

世界大戦がピークを迎えて、どこの国も細菌兵器を手に入れようと必死です。

菌株が今、誰の手にあるのか。

誰が味方で誰が敵なのか。

同国人でも主義や所属組織が違うだけで敵や障害になり、外国人でも利害が一致すれば味方になります。二重スパイもいれば、自分だけは助かりたいと亡命のチャンスの代わりに情報を売る人間もいます。

物語の後半はかなり混沌としてきます。

現実世界でも、戦時中はこんなにも人間関係や利害関係が錯綜していたのかと思うと空恐ろしいです。情勢の変化に機敏に対応しなければすぐに死んでしまいます。

疑心暗鬼で気の休まるヒマもありません。 

 

 よく「音楽は国境を越える」と言われます。

言語、文化、習慣の違いがあっても、人は音楽を介すれば分かり合うことが出来るということです。

ただ、国境を越えられるのは「音楽」だけでしょうか?

 

この物語の主人公・宮本は「科学」でも越えられると信じています。

科学さえあれば、世界中の人間と平等に交流できるはずだと。

残虐な細菌兵器を作り出したのも科学ですが、

かつては一緒に仕事ができた、各国の研究者たちをつなげたのもまた科学なのだから。

 

彼らは果たして、細菌兵器を世界から消滅させることができたのか。

細菌兵器の結末は、本を読んでお確かめ下さい。

 

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