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【小説・ミステリー】『グラスバードは還らない』―壮大な力技トリック

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『グラスバードは還らない』市川憂人 / 東京創元社

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 ↑「このミステリーがすごい!2019」第10位。

 

 キラめくような1アイデアだけで話を広げていくミステリーではなく、

小さなアイデアをいくつも組み合わせて腕力でドデカイ設計に持って行った感じのミステリーです。

別にけなしているわけではありません。

前者のような作品は、一人の作家が一生に一回閃けばラッキーというものだからです。

後者は根気と試行錯誤が必要です。

デビュー作『ジェリーフィッシュは凍らない』でもそうでしたが、この著者はトリックを非常に重視していて、「練りに練りまくって作ったぜ感」がビシバシ伝わってきます。

ミステリーなんだからトリックにこだわって当然でしょと思われるかもしれませんが、トリックではない部分で勝負しているミステリーもけっこうあるのです。

著者の市川氏は「読者の予想の二段階くらい上を行ってやるぜ」というトリック創作への執念が、他の作家さんより強い気がします。

デビュー間もないがゆえの気負いなのかもしれませんが・・・。

 

 『ジェリーフィッシュ』と同様に、捜査側(警察側)と被害者グループ側の2視点を切り替えながら物語は進行します。

この手法は叙述トリックを仕掛ける余地が多分にあります。

叙述トリックは「地の文で嘘を書いてはいけない」というミステリーの基本的前提の上に仕掛けられるものですが、例えばAというキャラクターの視点で物語が記述されている場合、Aが目の前の現象をどう解釈するかは自由なので、Aが誤認したことは(事実かのように)そのまま書いてよいのです。

警察側の視点も同様のことが当てはまります。

捜査の中で発見された手がかりを、犯人が仕掛けたミスリードだと気付かずに、事実を誤認してしまうことはよくあります。

2視点ともどこか誤認していれば、読者は簡単に騙されます。

これはズルではありません。高度なテクニックです。

 

さらに2視点の利点は、時間や空間を同時同一だと読者が認識していても、違うものだと認識していても、それの逆手を取りやすいことです。

『グラスバード』は前者です。(後者のパターンの作品はめったにありません。)

 

9.11の証言者の参考文献が巻末に挙げられているように、

この物語の舞台のモチーフは世界貿易センタービルでしょう。

テロによって超高層ビルの中層階が爆破されたら、上層階にいる人間はどうすれば逃げられるかというハラハラ展開。

それに加えて、最上階の密室(階の中は自由に動けるが出入口が開かない)で起こる連続殺人事件。

AはBを殺し、BはCを殺し、CはDを殺し、DはEを殺した。

Aは他殺体で発見された。Aは一体誰に殺され、犯人はどこに消えたのか?

巧妙な伏線が事前に張られていました。

すごい。

 

残念なのは「グラスバード」の美しさが完璧に読者に伝わらないことです。

小説は文章だけなので、いくら表現を重ねたところで、「美しさ」を誰かに伝えることに関してだけいえば、写真や動画のビジュアル的な迫力には敵いません。

想像力の余地という観点ならば小説の方が上でしょうが、「美しさ」を「犯行動機」に絡めてくる場合に限り、ビジュアル的根拠がないので、読者の共感や納得感を得にくくなる弱みが生じます。

仕方ないといえばそうなんでしょうけど・・・。

 

犯行動機は万人が理解できるものである必要はないし、共感される必要もないと僕は考えています。(そもそも、人を殺すのにそんな分かりやすい動機ばかりであるはずがないと思います。)

「動機にも超納得~♪」と言われるほどでなければダメなのなら、この世に優れたミステリーなど一つも存在しないことになってしまいます。

けれど共感してもらった方が、読者に作品を支持してもらえやすいこともまた事実。

難しいですね。

 

結局「グラスバード」の姿がうまくイメージできないのは、僕の想像力が貧困だからという結論に落ち着きました。

 

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