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【ノンフィクション】『生きるための選択』―壮絶な北朝鮮脱出記

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紙の本も読みなよ / A-key-Hit

『生きるための選択』パク・ヨンミ / 訳:満園真木 / 辰巳出版

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 北朝鮮から脱出して他国にたどり着いてそこで生活している人達—いわゆる「脱北者」と呼ばれる方の本(自叙伝)はけっこう出版されています。

脱出ルートは様々あって、最終的には韓国や中国にたどり着くことが多いようです。

政府高官(の家族)でもない限り、一般市民は高等教育を受けていないので、ヨーロッパやアメリカに逃げたところで言葉も習慣も文化も違い過ぎて生活できないからそうなるのでしょうか。

違います。

 

そもそも空路での脱出ルートは(本を読んだ限りでは)無いように見えます。

 (韓国などに安全に逃げ切ってからなら有りますが。)

脱北者は皆、陸路で北朝鮮の国境を越えて逃げるのです。

そして脱北スタートは家族(あるいは仲間)がある程度そろっていますが、途中でバラけてしまい、お互いに消息がつかめなくなってしまうことがよくあるので、無事に安全圏まで逃げられた方は そこで家族を待つことになります。

待っているポイントが中国や韓国になるのです。

 

実は、脱北の大半は家族そろって行われるのではありません。

大人数が移動すればそれだけ国境警備隊に発見されやすくなり、失敗のリスクが高まります。

だから一人や二人だけで実行することもザラにあります。

案内人を雇って、彼を含めて3~4人が限界の人数になります。

 

捕まれば殺されるので、脱北支援を請け負う業者(ブローカー)も大人数は嫌がります。ブローカーたちはボランティアではなく、金を稼ぐためにやっていて、人身売買が生業の組織である例も多いそうです。

脱北希望者は依頼したブローカーが悪徳業者なのか、本当に脱北請負業者なのか、行ってみないと分からないという危険があります。

しかしそれくらいのリスクでも受け入れられるほど、北朝鮮での暮らしが切羽詰まっていて、もうどうしようもない状況なのです。

 

飢えをしのぐためにどうするか苦慮するだけの毎日。

その辺に生えている草を食べても、お腹が満たされるはずもなし。

食べられるものは何でも食べるし、虫がいればそれは「おやつ」になります。

国が闇市を禁止しているけれど、闇市に参加しないと何も手に入らない状況です。

親は闇市で雀の涙ほどの稼ぎを得て、食べ物を探し求めます。

子どもたちは学校などまともに卒業まで通えるはずもなく、教育の質も社会の状況から推して知るべしといったところです。

こんな状況で、建設的な将来が思い描けるはずがありません。

生きる気力や思考力すら奪われる飢餓の日々から、なんとか意志を奮い立たせて脱北を試みるわけです。命を賭けて。

どうせこのままだと早晩死んでしまうのだから、選択肢は一つしかありません。

 

 この『生きるための選択』の著者は、母親と一緒に鴨緑江(北朝鮮と中国の国境の役目を果たしている川)を渡って中国に入ろうとします。

女性がブローカーに頼ると、お金を持っていないので身体で支払いを求められがちですが、著者は当時13歳だから助かったそうです。(母親は免れなかった。)

(男はお金がなければ、人身売買の商品になってしまいます。)

 

著者が脱北を依頼したのは、実は中国の人身売買組織だったので、そこから逃げ出すのにも苦労します。

もう誰も信用できないし、途中で母と離れ離れになってしまって、今後の行き先も分からなくなる場面は読んでいてヒヤヒヤしました。

 

結局、中国→モンゴル経由で韓国に亡命することに成功します。

たしかに壮絶な幼少期を送ってきたエピソードが書かれていますが、

著者はいくつもの圧倒的な幸運に恵まれていました。

 

中国で警察に見つかって北朝鮮に強制送還されたり、

モンゴルに行く途中で警備隊に見つかって捕まったり、

中国の農村に売られて奴隷のように使われたりしなかったのは、

知恵を働かせたからではなく、単にたまたま運が良かっただけです。

レイプされなかったのも単に若すぎたからです。

人身売買のブローカーがなぜか彼女にだけは親切にしてあげたり、母親の行方を捜してくれたりしたのはラッキー以外の何物でもありません。

つまり、いくつもの幸運が重ならないと、「脱北」は成功しないのです。

(成功率は記載されていませんでしたが、読んだ感じでは数%くらいなのではないかと思いました。強制送還されると殺されるので、正確な統計は取れません。)

 

 

無知や無力なのは仕方のないことです。

境遇を考えれば当たり前です。

しかしそこで決断力と行動力を失わず、考えることをやめなかったのはすごい。

生きることを諦めなかったことが、成功という結果につながったのです。

 

生きるためのハングリーさ。

社会の最下層から這い上がってやるんだ、周りを見返してやるんだという精神力。

韓国に亡命してからの猛勉強ぶりには驚嘆しました。

 

何が何でも生きたいという気持ちは、今の日本人には無いものかもしれません。

海を隔てたすぐ近くの国では、まだこういう悲惨な現実が存在しているんだということを知らないままでは、日本人の視野はますます狭くなるばかりです。

世界中で翻訳されているそうですが、日本人にももっと読んでほしい本です。

 

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