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【ノンフィクション】『荒野へ』―どこで生き、どう死にたいか

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紙の本も読みなよ / A-key-Hit

『荒野へ』ジョン・クラカワ― / 訳:佐宗鈴夫 / 集英社

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実家がド田舎の僕にはにわかには信じ難いのですが、

都会人の中には、田舎でのんびり暮らしたいと考える方がおられるそうですね。

 

田舎は交通の便が悪いから車は絶対に手放せないし、

買い物も気軽に行けないから1回1回大量買いが必須で大変ですし、

病院も近くに無いから、病気になったらかなりしんどいですし、

周りが山に囲まれていれば花粉症の時期は地獄ですし、

周りに田んぼがあれば夏はカエルがうるさくて夜眠れないし、

年中、家の中に何かしら虫が侵入してきますし、

まあデメリットの例を挙げればキリがありません。

僕は都会で暮らす方が好きです。

当然のことながら。

Amazonがあるとはいえ、近所に書店がない環境がすでにかなりのストレスです。

書店は心のオアシスなのです。

 

日本だけではなく、アメリカでも同じように田舎暮らしに憧れる人もいるようです。

都会生活に疲れた現代人は、田舎で心癒されたいと願うものなのでしょうか。

 

この本の中の青年は、田舎どころかテクノロジーの一切ない自然の森(荒野の世界)で生活することに憧れて、実際にそれを実行に移しました。

しかしそれは悲劇的な結末を迎えました。

アラスカの冬の森に入ってから4か月後、独りで死んでしまった彼の遺体が発見されるという事件になったのです。

 

この事件はアメリカで議論を呼んだそうです。

主な意見は、無謀すぎ、無計画すぎ、自然を甘く見過ぎ、若さゆえの見通しの甘さ、

自信過剰で森をナメていたなど、否定的なものが多かったようです。

 

当時は、都会で恵まれた家庭環境で育ったアメリカ人のその青年が、

どういった経緯でそういう結末へ至ったのか、詳細は謎に包まれていました。

(よく分かっていないのに批判するのは、いい加減で愚かなことですが、日本人だって同じような傾向がありますし、世界中の人はどこでも変わらないということでしょうか。)

 

そこでノンフィクション作家である著者が、関係者に取材をして、青年の旅の足跡をたどりながら、青年の本心や本当の意図はどこにあったのかを考察する内容になっています。(青年はもう亡くなっているのでインタビューのしようがないので。)

 

 

青年は学校でも成績がよく、数少ない知人や友人からは「頭がいい奴」「親切な人」といった好印象を持たれていました。

向こう見ずだとか、無計画な性格ではなかったことが取材から分かってきます。

極寒の冬の森に独りで入っていくことが、かなりの危険を伴うことだと理解していて、

それでもなお入念な準備をして実行に移したことも読者は知ることになります。

 

そして自暴自棄になっていたわけでもないということです。

やけっぱちになって、冬の森でひっそりと死んでいきたいと願っていたわけでもなかったことが分かります。

自殺願望など無かったことも、現場の状況から伝わってきます。

森に打ち捨てられたバスの中で、必死に暖を取って生き延びようと努力した形跡が残されていました。

 

究極的には、青年の本心は本人にしか分からないことなのかもしれませんが、

青年がどこで生きていきたくて、どういう手段でどこへ向かおうとしていたのか

といった輪郭はうっすら見えてくるような本でした。

 

都会で生活していると、自分が生きているという実感が薄れていくことがあります。

都会で生きるだけがすべてではありません。

どこで生き、どう生きていけば我々は生の実感を強く持つことができるのでしょうか。

 

 

「集英社文庫・夏の100冊」、いわゆる「ナツイチ」で

ラインナップの中に大体毎回入れられているほどのロングセラー本です。

たしかに、夏休みだとワクワクしながら読めそうな気がします。

青年は亡くなってしまいましたが、自分ならどこで生きて、どう死にたいのかを考えるいいキッカケになる本です。

 

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