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【エッセイ】『中国では書けない中国の話』—中国人作家にしか書けない中国人の性質

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『中国では書けない中国の話』余華 / 訳:飯塚容 / 河出書房新社

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<著者の余華氏は、今や超売れっ子の中国人作家(小説家)です。>

現在、著作が日本語に次々翻訳されて読まれている中国人作家としてはトップクラスにいる一人です。

なのにこんなリスクのある本を書くなんて、クレイジーなのか、相当自国を憂いているのか・・・おそらく両方でしょう。

 

<昔はもちろんのこと、現在でも中国では言論統制のような規制がまだあります。>

中国政府に批判的な内容の本を書いたりすると、出版差し止めだけでなく、作家本人の身柄を拘束されるという事態にまで発展する可能性があるのです。

ノーベル平和賞を受賞した中国人活動家・劉 暁波氏は、2010年の受賞時もそうですし、肝臓がんで亡くなる2017年までずっと身柄を拘束されていたことで世界的な話題になりました。(劉 暁波氏の著作はいくつか日本語に翻訳されていますので、日本人は読むことができますが、中国語版が中国で現在流通しているのかは不明です。)

 

この『中国では書けない中国の話』も、中国国内で発禁処分となりました。

しかし翻訳されて中国以外では読める形になっています。

皮肉ですねえ。

中国人にこそ著者は読んで欲しかったはずなのに・・・。

 

中国だけでなく、ロシア(旧ソ連)でも似たような事例が多くあります。

「ソ連時代には発禁処分を受けた小説が、ついに翻訳されて日本でも読めるようになった!」というような宣伝文句の帯がついたロシア人作家の小説は数年前からちらほら見かけます。

読んでみても、現代日本人の感覚からすれば、「どこにそんなに過剰反応したんだ?」というような疑問が湧くばかりです。

ウラジーミル・ソローキンやミハイル・ブルガーコフの著作群をどれか一つでも確かめてみてください。

「大衆の目に触れさせないようにしなければならないほど過激な内容か?」と思うでしょう。(僕が鈍感なだけなのかもしれませんが。)

ちなみにドストエフスキーも最初はほとんどの作品が発禁処分を食らったそうです。

 

なんでもかんでも禁止しすぎじゃあないですか?

中国もロシアも、共産主義国は過剰にビビり過ぎなのでは?

そこまでガチガチに言論統制しないと一党独裁体制が揺らぎかねない、と警戒しているのはなぜなのでしょうか。

それほどの暗部と腐敗構造を抱えていることを、権力者たちが自覚しているからでしょうか。

 

 <中国には陳情制度というものがあるそうです。>

 法律ももちろんあるのですが、国民は法律をまったく信じておらず(裁判で誰かを訴えても仕方ないと思っている)、お上への陳情によって現在の困窮を救済してもらうよう働きかけるそうです。

陳情と法律のダブルスタンダードが存在する国なんだそうです。

ちなみに2004年の陳情数は1000万件に達したとか。

 

社会の腐敗と司法の不正によって被害を受けた人々は、法律を信用せず、清廉な官吏が現れて彼らの正義を守ってくれることを夢見ているそうです。

賄賂文化が当然のようにはびっこっている国であっても、中央政府だけは清らかな存在だと思っているのだとか。

我々からしたら「なんでそう思えるの?」という感覚ですが、あまりに広大な国だと、一般市民には中央政府は遠い存在であり、高潔なものであってほしいという願望が醸成されていくのかもしれません。

小説『水滸伝』でも、腐敗して不正を繰り返しているのは地方政府や中央官僚であって、トップの皇帝に問題があるからというようには描かれていません。

日本という小さな島国で暮らす我々には、実感しようもない感覚なのかもしれません。

 

<中国の検閲制度のおかしさについても言及されています。>

融通が利かずに堅苦しいイメージがある検閲制度ですが、抜け穴のような面もあるそうです。

ある小説が20年間ベストセラーになっているのに、その小説を原作とした映画は20年間上映を禁止されました。これはよくある例です。

真相はこういうことです。

中国には500余りの出版社があって、そのうちの数社に拒否されても他の出版社からは出版する機会がまだあります。

一方、映画の検閲は一度きりで(国家電影局の役人が行う)、禁止されれば映画館での上映機会を失ってしまうそうです。

中国の出版社は政府からの援助が一切ないので、政治的リスクがある本でも、儲かると判断した社長は冒険に踏み切ります。出版業もビジネスなので当然ですね。

一方、映画の上映を全て禁止したところで、役人には経済的不利益がありません。

(頑張って撮影した映画監督たちが困るだけ。)

よってリスクを冒してまで上映許可する役人はいないのです。

 

「これをやったら政府に目をつけられるかな」というバランス感覚がけっこう大事なことが分かります。日本人でなくても、「お上への忖度」はやっているものなのかもしれませんね。

 

他にも面白いネタが多く記載されています。

中国人にしかわからない微妙なニュアンスを、丁寧に解説してくれています。

現代中国の文化や習慣を理解するためにオススメの一冊です。

 

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