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【小説・ミステリー】『13・67』―リバース・クロノロジー(逆年代記)の手法がカッコ良すぎ!

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紙の本も読みなよ / A-key-Hit

『13・67』陳浩基 / 訳:天野健太郎 / 文藝春秋

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 ↑表紙がカッコイイ!文庫は今のところ未発売です。

 

<「安楽椅子探偵」という言葉をご存知でしょうか?>

ミステリーにおける「普通の探偵」は、事件現場を訪れ、そこで手がかりを発見し、関係者に聞き込みをして、謎を解いたり真犯人を指摘するものです。

しかし「安楽椅子探偵」は何らかの事情や理由(忙しい、めんどくさい等も含む)により、自分は現場に行かず、誰か(助手的な人)を聞き込みや現場検証に行かせて、その話を聞いて謎を解くスタイルの探偵の総称です。

現場を見てもいないのに、さも全てを知っていたかのように鮮やかに謎を解く姿はカッコイイのですが、現場ならではの試行錯誤やトラブルに本人が対処するわけではないので、ともすれば偉そうでいけ好かない奴として読者に嫌われるリスクのある設定でもあります。

助手の視点でしか現場を見られないので、手がかりに抜けがあった場合、推理をミスる可能性が高いのも問題といえば問題ですが、まあそれはストーリーが盛り上がるオイシイ展開ととらえることもできますね。

 

安楽椅子探偵は古今東西のミステリーで色んな作家が書いています。

僕が知っている肉体的に最弱の安楽椅子探偵は、ジェフリー・ディーヴァーの『リンカーン・ライムシリーズ』のリンカーン・ライムです。

彼は脊椎不随で、看護師がいなければ日常生活もままならない毎日を送っています。

自由に動くのは左手の人差し指と首から上だけ。

神経の発作が起きれば確実に植物状態になるという危機的状況ですが、科学捜査の知識と推理力は抜群というキャラクターです。

 

どう考えても、彼より肉体的に弱い探偵キャラ設定なんて有り得ないと思いますよね。

・・・有り得ました。

 

<この『13・67』ではさらに最弱の名探偵が描かれていました。>

間違いなくNo.1です。

その名探偵(刑事)の名はクワン。

彼は現役時代は素晴らしい成果を上げていましたが、退職後は肝臓がんを患って今や末期の昏睡状態に陥っています。身体が動かないのはもちろん、話せないし、目も見えません。ただ、耳は聞こえていて、意識はある状態です。

会話はできないけれど、改良した脳波測定器により、こちらの質問に対して「YesかNo」を示すことだけができます。

 

 彼の現役時代に目をかけていた部下でもあったロー刑事が助手役になり、

事件の概要をクワンの耳元で説明して、真相を推理させます。

関係者を彼の入院している病室に集めるんですね。

話せない探偵がどうやって推理して犯人を追い詰めるのか分かりますか?

その見事な手法は本を読んで確かめてみて下さい。

著者のアイデアの勝利ですね。

 

しかし、せっかく真犯人と真相までたどり着いたのに、証拠が不十分で逮捕できない状況は最初から変わっていませんでした。

この卑怯で凶悪な犯人は絶対に捕まえたい。

そこでクワンとローがとった作戦とは、「別件逮捕」でした。

 

クワンが何もかも見透かしているという演出で、真犯人の危機感を煽り、余命いくばくもないクワンの点滴にモルヒネを過剰摂取させて殺害させるという罠を張ったのです。

(一瞬だけ昏睡から目を覚ましたクワンが、この作戦をローに伝えました。)

がんの末期には痛みの緩和のためモルヒネをうちますが、現実でも過剰摂取によってそのまま亡くなってしまうケースもあるそうです。

だから殺害されたとしても(他殺か事故か)分かりにくいのですが、だからこそ犯人は動くとみて、隠しカメラで真犯人の犯行を録画することで証拠としました。

 

つまりこれでクワンは殺害されてしまうのです。

しかしこれこそクワンの狙いであり、逮捕のための作戦でした。

名刑事として数々の事件の真相を見破ってきたクワンの最期の仕掛けは見事成功します。

クワンは、惰弱した現代の香港警察内で正義を完遂するためには、

「手段を選ばない」という信念をもって常に行動してきました。

正義のために手段を選ばないというのは、ともすればテロリストに通じるものがないわけではありませんが、そういったグレーな捜査手法も、清濁併せ呑む名刑事たるゆえんなのです。

最後の最後まで、彼は名刑事だったということです。

カッコイイ!

 

ここまでが第1話。

これだけで十分面白いミステリーとして成立しています。

なのに著者はさらにたたみかけます。

 

<この物語は6話構成で、リバース・クロノロジー(逆年代記)という手法で描かれています。>

普通の物語ではページが進むごとに、物語内の時間も進みますが、

リバース・クロノロジーは逆に時間を巻き戻して描かれていきます。

舞台は香港警察。主人公がクワン刑事なのも同じで、年齢だけ違います。

第1話が2013年のストーリー。

2話が2003年。(SARS流行)

3話が1997年。(香港返還)

4話が1989年。(香港が中国へ返還されることが決まる。)

5話が1977年。(警察の汚職が問題に。警察官によるデモが発生。)

6話が1967年。(文化大革命発動の翌年)

タイトルの『13・67』とは「2013年から1967年へ」という意味なのです。

第1話でクワンは死んでしまいますが、次の話では「その10年前」が、3話では「さらにその10年前」が描かれていくわけです。

 

単に時代をさかのぼるだけだと、「昔はよかった」とか「今の〇〇はダメになったけど、以前はそんなことなかったんだ」とかいう懐古主義の主張に陥ることでしょう。

老人の言い訳や自慢話ほどダサいものはありません。

 

しかしこの本は、そんな甘っちょろいノスタルジーに浸る物語ではありません。

クワンはいつだって前線で皆を引っ張って行動し、冷静な洞察力を発揮して真相を看破してきたことが示されるのです。

「今は力が衰えて頼りなく見えるけど、若い時は必死に頑張っていた」とか、

「昔は言動が無鉄砲すぎたが、歳を重ねて今は落ち着いた」とか

人が人生の中で変化していくことを、さも悟ったかのように言う人がいますが、

そんなことは誰もが分かっていて経験することです。

人が変わることは、ありふれたことです。

すごいのは、変わらずにいることです。

これはクワンが常に変わらず全力疾走してきたことが分かる物語です。

カッコイイ!

 

<香港警察は昔から賄賂文化が常態化していて、不正腐敗が問題になっていました。>

 2話での大物ヤクザの逮捕作戦や、3話での凶悪犯の脱獄事件、4話での犯罪グループのマンション立てこもり後の銃撃戦、5話での誘拐事件など、クワンはいつの時代も犯罪と一緒に、警察内部の不正とも戦ってきました。

市民を守る正義の警察官としてのあるべき姿をずっと体現してきたように描かれています。

しかし、6話(最終話)でそれがひっくり返る衝撃の事実が判明します。

6話にだけ叙述トリックが仕掛けられていたのも悔しいほど見事ですが、

ラスト1ページの余韻と鳥肌は忘れられません。

 

ああ、だからリバース・クロノロジーという手法になったのかと感動しました。

6話と1話が、正義と悪が逆転する形でつながっていたのです。

そしてまた1話に戻るという円環構造がもたらす物語のテーマの美しさ。

人の変節という皮肉の哀しさとやりきれなさ。

すごい。すごすぎます!

 

正直、2019年が始まって間もないですが、今年中にこれを越えるミステリーが読めることはまずないだろうと思えるほど素晴らしい作品でした!

よくよく調べてみたら、去年の『このミステリーがすごい』海外編で2位を獲得した小説でした。

世間はこのすごい作品を見逃していなかったのですが、僕が見逃していたということです。

ああ、読めてよかった!!

 

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