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【小説・ミステリー】『血の探求』—ほぼ盗み聞きだけで構成されたミステリー

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紙の本も読みなよ / A-key-Hit

『血の探求』エレン・ウルマン / 訳:辻早苗 / 東京創元社

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↑5年前の本なのに文庫にはなっておらず、現在、新刊状態でも入手不可です。

 中古でのみ入手可能です。

 

「殺人事件」が起きて、「探偵」が「推理」して、「犯人」を当てるものだけが

「ミステリー」というわけではありません。 

殺人事件が起きなくても、魅力的な謎があればそれはミステリーといえます。

ちなみに、この小説では殺人事件は起きません。

日常の1コマを切り取って上手く味付けするだけで、相当な緊迫感をもったストーリーが作れるという証左のような小説です。

 

<あらすじ>

主人公である大学教授の「私」は、何らかのトラブルを起こして休職になりました。

神経症気味の「私」は疲弊していましたが、それでも社会との接点を失わないために、街でオフィスを借りることにします。

 隣の部屋は、精神科医のオフィスでした。

プライバシー保護のために、カウンセリング中はわざとスピーカーからノイズ音を流して、ドクターと患者の会話が第三者に聞こえないよう配慮されていました。

しかし、ある「患者」だけはそのノイズ音を嫌って、カウンセリング中でもそれを流さないような対応がされていました。

 

偶然、彼女たち(ドクターと患者)の会話が「私」に聞こえてきます。

「私」のオフィスとドクターのオフィスは、薄い扉1枚を隔てた構造になっていたのです。(それから毎週水曜日は、扉のそばに座って盗み聞きするようになります。)

「患者」は若い女性で、自分はどうやら養子として今の家族に育てられたようだと疑っています。

精神が参っているが故の誤解なのではないかと「私」も「ドクター」も考えますが、実は本当に養子だったことを「患者」は母から聞き出すことに成功します。

「患者」は長年、両親に愛されていないことに悩んでいましたが、その理由が判明しそうだということで、本当の母親探しに乗り出します。

しかし「患者」の調査能力は低く、すぐに暗礁に乗り上げてしまいます。

 

(盗み聞きしている)話が進展しないことに「私」はヤキモキしてきて、

ついには自分でも「患者」の親探しの調査を開始します。

そして手がかりを発見したので、「患者」が以前問い合わせた者だと身分を偽って、資料を郵送で送ります。(もはやストーカーの域です。)

次々と明らかになっていく「患者」のルーツ。

ついに「患者」は、生みの親である母に会いに行きます。

 

<アイデンティティの獲得>

産みの親が確定している人には中々想像できないことかもしれませんが、

自分の出自が不明瞭であるというのは、自分の根幹をかなり不安定にさせます。

 

自分の本当の産みの親は一体誰なのか。

なぜ養子に出されたのか。(捨てられたのか?)

何か事情があったにせよ、なぜ今まで会いにも来てくれないのか。

自分が持て余しているこの性格・性質は、産みの親から受け継がれたのか。

 

産みの親と育ての親が一致していれば考えることすらないこの悩み・疑問は、解消されなければ一生引きずって苦しむことになりかねません。

 

この小説では、ナチスドイツによるユダヤ人の迫害に絡めて、「患者」がアイデンティティを取り戻していく過程が描かれます。

世の中には「知らなくてもいいこと」があるのかもしれませんが、それは同時に

「知らないと前に進めないこと」でもあったりします。

 

<叙述トリックはありません>

ちなみに、「私」も「患者」も最後まで名前は明かされません。

普通、ミステリーで人物固有名詞が明かされなければ、人物誤認の叙述トリックが仕掛けられていることが多いので構えていたのですが、関係ありませんでした。

おそらく著者はこの作品をミステリーとして描いているつもりがないのでしょう。

「私」と「患者」のアイデンティティをめぐる物語として書いていたのですね。

あえて固有名を付けなかったのは、これは彼らの物語ではなく、読者皆にも当てはまる物語だというメッセージでしょうか。

 

ミステリーを読みすぎると、素直に小説を読まなくなるという弊害があります。

この小説は、穿った見方をせず、素直に物語の流れに身を任せるべき作品です。

 形式は変化球ですが、テーマは普遍的なものです。

変わったミステリーが読みたい方にオススメです。

 

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